藤野可織『おはなしして子ちゃん』

おはなしして子ちゃん (講談社文庫)

おはなしして子ちゃん (講談社文庫)

文庫落ちしたのを書店で見かけたので購入。藤野可織作品は一昨年の「パトロネ」読書会以来。

おはなしして子ちゃん

理科準備室のホルマリン漬けにされた猿が、喋るどころか話をせがんで吸収しては復活して人を襲う。一見無駄に見える(授業で使わないし)ホルマリン漬けの標本も、話す機会が奪われた女の子にとっては意味のあるものになり得たのだというお話。

ピエタとトランジ

行く先々で事件を誘発する異能力の持ち主である女の子(黒髪真面目)と、JK好きな年上社会人に騙されてた頭の弱めな女の子(ギャル風)のキャラ文芸風百合推理もの。藤野可織ってこんなものも書くのかと少しびっくりした。

アイデンティティ

猿と鮭を強引に縫い合わせて人魚にして輸出する職人たち。失敗作の主人公(人魚)のアイデンティティをめぐる葛藤が主題なんだけど、円城塔を連想させるユーモアが全編に溢れていて面白い。みんなが「人魚です」と言えるのに、ひとりだけどうしても「鮭です」「猿です」と言ってしまうところとか。

今日の心霊

撮る写真が全て心霊写真になってしまう女性。いけしゃあしゃあとホラを吹き続ける語り口が好き。プリクラはセーフ(機械がシャッターを切るから)とか、「彼女が撮影したネガは最後」で「ん?」と思わせておいてからデジカメ全盛期の到来とか。

美人は気合い

宇宙船の一人称なのでSF!!

エイプリルフール

毎日一度だけ嘘を付かないと死ぬ女の子の話。
一度だけというのがポイントで、周りも女の子を殺したくないから気を遣ってしまう。つまり、誤解から生まれた発言を事実を修正して嘘でなくしてしまうことになり、次第に女の子は何一つものを言わなくなってしまう……ママから言われた「私は蝶を食べるのが嫌いです」という明白な嘘以外は。「アイデンティティ」に引き続きアイデンティティとか自己承認の話か。

逃げろ!

強迫観念に襲われる男の話。

ホームパーティーはこれから

新婚の妻が、夫の会社の同僚たちを招いてホームパーティーを主催することに。
かつて輝いていた昔の自分、今でもSNSで承認され続けている自分(あたし)と今の自分(私)を摺り合わせようともがくも、ホームパーティーは始まってしまい、気が付けば異常な数の人が……、というエスカレーション式のホラー。またアイデンティティの話か。

ハイパーリアリズム点描画家の挑戦

人生をかけて超精密な絵を点描で描いた芸術家たちの展覧会。展覧会での場所取り争いが暴力的であるある。

ある遅読症患者の手記

本が有機物で、透明なパックを開けると生長をはじめるような世界で、読むのが遅くて毎回本を殺してしまう主人公。読書の時の強迫観念(早く読まなきゃ、とか細かいところが気になって先に進めない、とか)がホラーの形でよく出ているなあ。
本絡みの奇想で、スラデックの「教育用書籍の渡りに関する報告書」を思い出した。

全て並々ならない奇想に溢れている。
というか、「おはなしして子ちゃん」「美人は気合い」以外の8作は群像2013年8月号に一挙掲載、ってどういうことなんや。えげついなあ。
おすすめ。